▲配線に気を配りながら、灯体を1つずつ取り付けます
職業としての音楽/エンタメ業界2022/照明にまつわる仕事
音楽やエンターテインメントに関する職業や業界は多岐に渡りますが、一体どんな世界なのでしょうか。今回は照明にまつわる仕事について、専門学校東京ビジュアルアーツ/音楽総合学科照明コースの龍野先生に伺いました。(DiGiRECO.JR VOL.47〜2022年2月号〜掲載)
光でステージを演出する仕事です
ー 照明の仕事全般について教えてください
龍野:軽音楽部に在籍している生徒の皆さんはわかると思うのですが、照明の仕事はコンサートやライブが主体になっており、他には日本だと和太鼓や三味線などの「和もの」をはじめ、「洋もの」ではバレエや古典芸能などがあります。それから、お芝居やミュージカル、オペラなどにも照明は付きものです。ちなみに、これらの「舞台照明」以外に、商業施設や飲食店に向けた「店舗照明」も照明にまつわる仕事の1つです。本校ではコンサートやホテルの照明の仕事に就く卒業生が多く、全国にある有名テーマパークに就職する卒業生もいます。
ー 入学前に、ある程度の知識は必要ですか? 高校時代にやっておいた方が良いことも教えてください
龍野:特に知識は必要なく、「日本は100Vです」ということがわかれば、良いと思います。これは私自身の経験になるのですが、若い頃にバンド活動をしていたおかげで「リズム感」が体に備わっているのと「楽譜を読める」というのが、すごく助かりました。クラシック音楽の現場に多いのですが、照明担当にも譜面が渡されるんです。その譜面を追いながらオペレートすることになるのですが、「今、どこを演奏しているんだろう?」というのがわからないと仕事にならないんです。私が多少の譜面を読める人間だったので、新人にもかかわらず大抜擢されたことがありました。そもそも、音楽や楽器に親しんでいるとアーティストが演奏を始めた瞬間から、その世界に入り込めるし、楽曲の起伏や「次は、こんな展開が来るのかな…?」という勘も働くので、照明の世界では「強み」になると思います。
ー この仕事の楽しいところを教えてください
龍野:音響と照明を比較すると、照明は視覚的に飛び込んでくるので、わかりやすいんですよね。ステージに立っているアーティストや演者が、自分のオペレートが良い時は「照明、すごく良かったです!」という風に言ってくれますし、良くない時はダメな点を指摘してくれるんです。もちろん会場にいる観客も同時に盛り上がってくれますし、例えば、音楽フェスティバルの現場では音響や照明のブースの周りは観客ばかりですので、そこでの感動は一際大きいです。そのやりがいを感じられるところが楽しい部分だと思います。
照明は「生もの」なので、機材や技術は常に進化しています。私自身は学生の頃は勉強が好きではなかったのですが(笑)、今は一生懸命に勉強し、新しいものを吸収して、それをステージで実際に試してみる…というチャレンジができるのが、すごく楽しいです。もちろんクライアントの意向もあるのですが、ある程度はこちらからプレゼンテーションをするので、それが評価されると嬉しいですね。
ー この仕事の大変なところを教えてください
龍野:いわゆる「3K(キツイ・汚い・危険)」に近いところでしょうか…。会場に入る時間は照明が一番早く、終演後、会場を後にするのも照明が一番遅いです。それから、音響も重たい機材がありますが、照明も同様、かつ物量が多く、細かい部品やパーツもあります。ドームでのコンサートの場合、スポットライトだけで何千台…という数になるんです。
それから、「緊張感」ですね。照明のプランニングが思い浮かばない時が辛いです。アーティストからの要望も受けながら、照明の設計図を作らなくてはいけないのですが、なかなかひらめかなかったり、ありきたりになりがちなところが大変に感じます。ただ、本番が終わって、客電を点けたところで「うまくいって良かった…」という達成感を感じるんですよね。その感動やホッとした瞬間があるから、僕自身も長年続けてこれたと思います。
ー この仕事は、どんな人にオススメですか?
龍野:僕自身もそうなのですが、あまり真面目すぎるよりも、いろいろなことに興味を持ち、誰とでも気軽に会話ができて、コミュニケーションを取れるような人が向いていると思います。仕事の技術は続けていれば、自ずと付いてくるものなので、心配はいりません。
ー この仕事を続けるのに大切なことは何でしょうか?
龍野:まずは「好きな気持ち」ですね。僕自身、「本当に照明が好きなんだな…」と思います。どの現場やプロジェクトもワクワクしますし、もちろん緊張もします。ですが、本番を無事に終えられた時のホッとした気持ちは何物にも変え難いものがあるので、いつもフレッシュな気持ちで臨んでいます。
そういう、いろいろなことに興味や関心を持ち続けるという「好き」の部分と、体力。そして、「負けないぞ!」という根気でしょうか。これは照明の業界に限ったことではありませんが、仕事を続けていると、どうしても壁にぶつかってしまうことがあります。それを乗り越える気持ちが大切です。
私は学生に「高校生の頃は、ただ単に遊んでいただけだったものを、意識を持って遊んでください」と伝えています。例えば、コンサート会場に足を運んだとしたら、今までは純粋にコンサートを楽しんでいただけだったところを、これからは「あの照明は、どの方向から当てているのだろう?」とか「何人くらいのスタッフさんがいるのかな?」という視点で見てみたり、考えながら過ごすことができると良いな…と思います。