▲ミキサーなどの機材を操作し、音を拡声する仕事です
職業としての音楽/エンタメ業界 2021
音楽やエンターテインメントにまつわる職業や業界は多岐に渡りますが、一体どんな世界なのでしょうか。今回は音響(PA)にまつわる仕事について、専門学校東京ビジュアルアーツの音楽総合学科/PAコースの井上さんに伺いました。(DiGiRECO.JR VOL.45〜2021年10月号〜掲載)
現場ごとに達成感を味わえます
ー 音響(PA)の仕事について教えてください
井上:PAは「Public Address」の頭文字を取っており、日本語にすると「公共に伝達する」という意味の和製英語です。そのため、海外で「PA」と言っても意味が通じません。日本の場合、PAという仕事は、基本的には「マイクロフォンを使用して、スピーカーから拡声する」というのがベーシックにあります。音楽業界やコンサート業界をはじめ、いろいろな音楽に接するような印象を持たれるかもしれないのですが、基本的には拡声をする仕事です。たまたま拡声する素材が音楽なのであれば音楽業界に属するだろうし、芝居やミュージカルの音響をはじめ、結婚式や披露宴、大きなシンポジウムや会議などでもマイクロフォンを使って拡声をするので、これらもすべて「音響」としての仕事になります。
仕事の形態としては、いわゆる会社組織に属することが大半なので、サラリーマンです。フリーランスで仕事をしている方もいますが、基本的には会社員になり、その企業が請け負っているコンサートやツアーの仕事だったり、ライブハウスの音響の委託業務だったり、ホールやホテルなどの音響業務など、サラリーマンとして自社の業務に従事します。
ー 入学前に、ある程度の知識は必要ですか? 高校時代にやっておいた方が良いことも教えてください
井上:知識やスキルなどは入学後に学べるので、特に必要ないのですが、音響で扱うのは「物理」や「電気」にまつわることなので、そのあたりに苦手意識がないと良いと思います。軽音楽部に所属している皆さんにとっては「ギターやベースって、こんな音が出るよね」「ボーカルってマイクを口に近づけないと、音が小さくなってしまうよね」というのを理解しているだけで、すごく有利に働くと思います。
ー この仕事の楽しいところを教えてください
井上:コンサートやイベント、ツアーなどが何日も続くこともあるのですが、基本的には、その日だけで終わる仕事が大半です。その達成感をいろいろな現場で味わうことができるのが、この仕事のすごく楽しいところであり、やりがいを感じる部分だと思います。「明日は、また別の現場だ!」という風にリセットして、仕事に臨めるのも、この仕事ならではの特徴です。また、同じアーティストの音響業務であっても、ホールやライブハウスによって音の広がり具合や聴こえ方がまったく変わるので、そういったことに対処をするのも面白いと感じるところです。「Funny」の楽しさではなく、「Interest」の楽しさや好奇心が掻き立てられる部分だと思います。
ー この仕事の大変なところを教えてください
井上:体力的にキツく感じたり、考え方に慣れるまでは大変だと思います。朝が早くて、終わるのは夜遅く…という部分や機材の扱い方を覚えるのも大変なのですが、慣れてしまえば、大したことはありません。一番大切なのは「人に慣れる」という部分です。どの仕事にも言えることなのですが、例えば、コンサートを例に取ると、自分は音響担当でも、決して1人で仕事をしているわけではなく、そこにはアーティストをはじめ、ステージスタッフや照明さん、映像さん、舞台監督さんなど、たくさんの方々が関わって、1つのコンサートを構成しています。ですので、いろいろな人たちと仕事をする上で、意見を聞き、意思疎通を図る「相手を認知する」という姿勢が欠かせません。普段から良い人間関係を構築しておくことが大切です。また、意思表示をしっかりとすることも、慣れるまでは大変かもしれません。「良いのか、悪いのか」「できるのか、できないのか」をハッキリと言わないと相手に伝わらず、誤解が生じてしまうことがあるので、緊迫した状況ほど、自分の考えや意見をしっかりと言わないといけません。
ー この仕事を続けるのに大切なことは何でしょうか
井上:体力に自信があるのはもちろんなのですが、それは精神的にも丈夫でないといけません。例えば、アーティストのツアーやフェスなどに帯同すると、何日も家に帰れなくなってしまいます。仕事が終わると移動したり、ホテルで過ごすことになりますが、必然的に仕事以外の逃げ場がなくなってしまうので、そういった環境に耐えられなくてはいけません。ですので、自分なりのリフレッシュの仕方やストレスの捌け口を見つけておくことが大切です。また、好きなことに従事していたり、好きな格好ができるとはいえ、やはり「仕事(ビジネス)」ですので、決めたことは守らなければいけないし、周りの人とコミュニケーションを取りつつ、真摯に仕事に向き合い、決断する際は瞬時に判断するなど、ビジネスマンとしての素養も忘れてはいけません。