▲夢中で続けていたことが仕事になったと話す豊崎さん
職業としての音楽/エンタメ業界2021
音楽やエンターテインメントにまつわる職業は多岐に渡りますが、一体どんな世界なのでしょうか。今回はギターの修理やメンテナンスをされている豊崎貴志さんに今の仕事に就いたキッカケや大切にしていること、やり甲斐などを伺いました。(DiGiRECO.JR VOL.43〜2021年7月号〜掲載)
楽器リペア/メンテナンス 豊崎貴志さん(toyo guitar)
ポイントは好きなことの「深さ」です
ー お仕事について教えてください
豊崎:僕の仕事はアーティスト(ミュージシャン)の楽器をお預かりしたり、音楽業界の様々な関係者から依頼を受けて、自身の工房にて楽器の修理やメンテナンスを行うことです。プロ、アマチュアを問わず、日頃から様々なミュージシャンの楽器を手がけています。時にはオーダーメイドの楽器製作の依頼もあり、修理業務をこなしながら、お客様の楽器製作も行っています。
ー 高校卒業以降、どういう経緯で今のお仕事に就いたのですか?
豊崎:キッカケは高校時代なのですが、ギターを弾き始めると同時に「改造」と呼ばれる分野に興味が湧き、ギター雑誌のカスタマイズ紹介やピックアップによる音の違いのコーナーなど、雑誌のそういったメカニックなページをよく読んでいました。そして、読むだけでは飽き足らず、素人ながら雑誌に倣って、いろいろと挑戦していた高校生だったんです。
軽音楽部に所属しながらそんな高校生活を送り、いざ自分の進路について考えたところ、イーエスピー学園のギタークラフト科への入学を決めました。改造だけでなく、イチからギターを作り上げるという未知の領域に魅力を感じたのが大きな理由です。ギター製作やリペアを2年間学び、卒業後は同校のギタークラフト科の講師として、8年間勤めていました。その中で築けた交友関係が今のお客様であったり、取引のある楽器店さんにつながっています。「独立」とか「開業」という言葉にするとハードルの高い感じが出てしまいますが、友人や知人からの依頼をこなしていくうちに「これなら商売になりそうだな…」という気持ちや状況に切り替わっていったような感じです。30歳手前でギタークラフト科の講師を退職し、独立することを決めました。
ー お仕事の楽しいところを教えてください
豊崎:楽器店さんのような店舗営業ではないので、個人工房には、いつでもどこでも自由に動き回れる利点があります。依頼があれば、レコーディングやリハーサルの現場に直接行って、楽器を預かったり、その場で修理を行うこともあります。楽曲制作やコンサートが作られるまでの過程を実際に見られるのは大きな刺激になりますし、その一端を担っていると思うと、プレッシャーもありますが、ミュージシャン本人やスタッフの方に喜んでもらえた時には、何にも替えがたい達成感があります。その現場で有名人に会えると、さらに嬉しいですね!(現場ではクールを装っていますが、家に帰ると妻に自慢します/笑)。
ー お仕事の大変なところを教えてください
豊崎:お客様の大切な楽器なので、とにかく失敗が許されないというプレッシャーが常にのしかかります。失敗しないための準備、対策、実験など、今でもいろいろと勉強しながら進めることがあります。一体、いつ本体に触るんだ…という場面もしばしばあります(笑)。
細かい話になってしまいますが、ギターには修理箇所以外であっても、どうしても起こり得るようなトラブルが多数存在します。そのことを事前に説明して、お客様にご理解いただく必要があり、事後のトラブル/クレームを未然に防ぐことが大切です。
ー お仕事を継続していく上で、大切にしていることは何ですか?
豊崎:不測のトラブルが起こった時に嘘をついたり、ごまかさないこと、誰かのせいにしないことだと思います。仕事は周りの人との信頼関係が大切なので、正直に話して、謝るべき時には素直に謝る、誠意を持ってその対応にあたることが一番だと考えています。「お客様が安心して頼める」「次もお願いしたい」…そう思ってもらえるような努力は日々怠らず、未だに勉強中の身です。経験は積みつつも、プライドは積み上げない。頑固オヤジのラーメン店みたいな工房にはならないように心がけています(笑)。
ー このお仕事は、どんな人にオススメですか?
豊崎:楽器は、とても派手なものだと思いますが、作り上げるまでにはコツコツと地味で、地道な作業の連続です。最初から最後まで、そうかもしれません。修理も当然同じことが言えますが、そんな地味で地道な作業に、とことん向き合える凝り性な人、没頭できてしまうような人にオススメだと思います。地道にやった分だけ、仕上がった時の感動は大きいですし、そこに快感が得られます。さらに、その感動をお客様と共有できる楽しみもあるなど、モノづくりや職人の世界には、そんな魅力やマニアックさが詰まっていると思います。音楽好きの人はもちろんですが、楽器自体のことにも興味をお持ちの人には踏み込んでみてもらいたい世界です。
協力:専門学校ESPエンタテインメント東京