文部科学省「『学校と地域が協働・融合』した部活動の 具体的な実現方策とスケジュール」を取りまとめ
部活動における改革が様々に叫ばれる中、文部科学省・文化庁はいくつかの施策を模索し始めています。多くは、顧問の「働き方改革」に起因しているものと思われますが、大切なのはもう一方の当事者である生徒たちにとって望ましい環境を構築することです。現在、時代の流れとともに部活動の大きな変化が求められていることは間違いありません。施策の1つである「部活動の地域移行」について、具体的な実現方策とスケジュールが示されています。(2021/2/顧問通信 VOL.33 掲載)
将来的には地域単位の取り組みに
平成30(2018)年3月に、文化庁によって「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が、同年12月には「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定されました。これらは、義務教育である中学校段階の部活動を想定したものですが、高等学校段階の部活動についても「本ガイドラインを原則として適用し、速やかに改革に取り組むこと」とされています。このガイドラインには、「学校と地域が協働・融合した形での持続可能なスポーツや芸術文化などの活動のための環境整備を進める」と記されています。
また、平成31年(2019年)1月には、中央教育審議会において、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」が取りまとめられました。この答申では、“学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務”の1つとして部活動を挙げ、「部活動の設置・運営は法令上の義務ではなく、将来的には部活動を学校単位から地域単位の取り組みにし、学校以外が担うことも積極的に進めるべき」としています。
学校部活動と地域部活動の連携
これらのガイドラインや答申を元に、文部科学省は令和2年(2020年)9月、学校における働き方改革も考慮したさらなる部活動改革の推進を目指す第一歩として、「『学校と地域が協働・融合』した部活動の具体的な実現方策とスケジュール」を取りまとめ、都道府県教育委員会をはじめ、各都道府県他、関係団体へ送付しました。こちらも、主として公立中学校を対象としていますが、高等学校においては学校の特色として位置付けられていたりする場合もあるため留意すべきであることとしながらも、「設置者の責任において教師の負担軽減を考慮した指導体制の構築が望ましい」としています。これは、私立学校においても同様です。
文化庁は現在、部活動が抱えている問題は、教科学習とは異なる集団での活動を通じた人間形成の機会であり、多様な生徒が活躍できる場である部活動が、これまでは教師による献身的な勤務の下で成り立ってきたことであるとしています。その中でも、部活動が休日を含む長時間勤務の要因であることや、指導経験のない教師にとって多大な負担となっていると指摘しています。そこで、特に休日の部活動における教師の負担軽減を図る必要があるとして、部活動に代わって生徒が自主的にスポーツ・文化活動に取り組み、体力や技能の向上を目指す活動機会を保障する観点から、教師の勤務を要する日(平日)に行われる「学校部活動」と、教師の勤務を要しない日(休日)に地域の活動として行われる「地域部活動」が連携を図りながら、生徒が望むような体制作りに取り組んでいくことが求められるとしています。
▲中央教育審議会の答申や給特法改正の国会審議での「部活動を学校単位から地域単位の取り組みとする」という指摘を踏まえつつ、文部科学省が明示したスケジュール
拠点校における実践研究開始
本スケジュールにおいては、来年度(2021年度)以降、文化庁によって拠点校(地域)における実践研究が始まります。これは、休日に教育指導を行わないことと同様に、「休日に教師が部活動の指導に携わる必要がない環境を構築すること」や、「休日における地域のスポーツ・文化活動を実施できる環境を整備すること」などを改革の方向性として示しています。そして、その成果や課題をもとに、休日の部活動の段階的な地域移行を図り、合理的で効率的な部活動の推進を図ることとしています。
具体的な方策としては、以下のようなことが挙げられています。
① 休日の部活動の段階的な地域移行
・休日の部活動における生徒の指導や大会の引率については地域人材が行う。令和5年度以降は休日の部活動指導を望まない教師は従事しないこととする。
・地域部活動の運営主体は、退職教師、地域の指導者、クラブや団体になると考えられるため、地域部活動の運営を担う人材や団体、指導者を確保する。
② 合理的で効率的な部活動の推進
・過疎地域などでの市町村を超えた他校との「合同部活動」を推進する。ICT(情報通信技術)教育の活用を推進する。
・全国大会、主に地方大会の在り方を整理し、見直しを促進する。
①については、大会の引率などで地域人材が確保できないなど、やむを得ない場合には教師が行うことも考えられること、地域部活動の際に生徒が怪我をしたり事故が発生した場合の責任の所在を予め明確にし、生徒や保護者の理解を得ることが望ましいとしています。また、休日の指導を行う人材の確保として、人材バンクの整備・活用や休日の指導を希望する教師への教育委員会における兼職兼業の許可の仕組みを整える、部活動指導員の国による支援を継続するとしています。もちろん、活動場所や用具の使用料、指導者への謝金などの費用負担の問題もあります。このあたりの調整は、今後検討が進むと思われます。
より良い環境作りのために
NPO法人全国学校軽音楽部協会では、株式会社三菱総合研究所による文化庁委託事業「地域文化倶楽部(仮称)の創設に向けた調査研究事業」の調査に協力しています。この事業は、児童・生徒が身近な地域で学校の文化活動に代わりうる質の高い文化芸術の機会を確保できるよう、学校や地域が地域の文化施設や文化芸術団体、芸術系教育機関などとの連携により、文化部活動を地域に移行した事例を収集・周知すると共に、地域に向けた体制構築や持続可能な環境整備を図るための調査研究を行っているものです。そして、有識者による検討会議にて、文化部活動の地域移行の方向性を検討することを目的としています。
コロナ禍において、部活動に関する様々な意見や思いがある中で、部活動の地域以降はまだまだクリアーしなければいけない問題が山積していると思われます。当協会は、文化庁による今後の文化部活動の地域移行検討に微力ながら協力させていただくことや、現場との橋渡しの役割を担っていくことで、顧問の皆さんにとっても軽音楽部員の生徒の皆さんにとっても、軽音楽部の活動のより良い環境作りが進むことを願い、今後の動きに注目して参ります。