顧問はかく語りき – 静岡県立静岡西高等学校 音楽部顧問 小澤知彦先生

全国学校軽音楽部協会の理事長と、全国各地の軽音楽部の顧問とが自校の現状や軽音楽部の将来について徒然なるまま、熱く語る。

20年近くにわたり、軽音楽部の発展に尽力されてきた小澤先生は、自校の音楽部(静岡西高での軽音楽部の名称)を監督されながら、2015年11月に静岡県高等学校軽音楽連盟委員長、2017年4月に静岡県高等学校文化連盟軽音楽専門部長に就任され、今では静岡県を牽引する立場になられています。学校業務の傍ら、横に長い静岡県内の交流に奔走するとともに、全国大会や総文祭への連続出場、県外合同ライブへの参加、自校合同ライブの主催などに取り組んでおられる小澤先生のご奮闘ぶりを、よくご存知の方も多いのではないでしょうか。

今回は、地方で軽音楽部の発展や取り巻く環境の整備に苦慮されている顧問の皆さんに向けて、そのご経験から様々なことを語っていただきました。

公共性を意識した活動を

— 早速ですが、地方の軽音楽部の発展を進める上で、どのようなアプローチが有効だとお考えですか?

▶︎私が一番に思うのは、軽音楽部も学校認可の部活動の1つなので、公共性を意識した活動を展開すべきだということです。他の部活動ならば、公式大会への出場が大きな目標にあるはずです。近年は、軽音楽部でも軽音楽連盟や高文連主催の公式大会が開催されていますので、まずはそこへの出場を大きな目標に掲げ、そのステージに立つためには日々の活動をどうすれば良いのか…を、考えていくことが本道です。すると、自ずと練習内容の見直しや、他校との合同ライブの実施などが必要となってくるので、部活動が展開していくと思います。

— 連盟が発足していない県もあります

▶︎「公共性を意識した活動」とは、簡単に言えば、教育委員会から認められたり、地方自治体の文化連盟に専門部の設置を目指しましょう、ということでもあります。そういった公に認められた組織になるには、2本立てで進めることが大切です。1つは、組織化に向けて皆で結束して活動実績を作っていくということ。いま1つは、公的な承認を受けられるような組織作りを同時に進めておくことも必要です。特に地方だと、いくら草の根的に合同ライブや講習会を行うなどの実績を重ねても、その活動は上には届きません。皆さんが行っている活動を、できるだけ早いうちからきちんとした組織を作って、申請していく動きを取るべきだと思います。

— 思うように進まない県もあるようです

▶︎そのようですね。いろいろと伺っています。県によって理由は様々だと思いますが、だから何もしないのではなく、いつでも動き出せる準備をしておくことが大切です。壁となっているものがクリアされてから「じゃあ、どうしようか」では遅いので、普段から活動をアピールするなどの素地作りをしておくことが大事です。そして、それは生徒にはできないことです。教員、顧問としての責任だと思います。

専門部の設置で変わる

— 静岡県では高文連に軽音楽専門部が設置されました

▶︎周囲に認められるような軽音楽部を目指しても、単一校でできることには限界があります。そこで私が取り組んだのが「組織として軽音楽部をアピールする」ことでした。他県での合同ライブや全国大会での先生方との交流を通じて、連盟設立の必要性を感じました。2015年に様々な方々のご支援とご協力を賜り、その思いを叶えることができましたが、連盟はあくまでも顧問教員たちによる任意団体の位置付けです。公的な助成金もなく、教員の出張が認可されないケースも生じました。そうなると、引率される生徒の安全も保障されません。そこで次に掲げたのが、「高文連軽音楽専門部」の設置です。

— 専門部の設置でどんなことが変わりますか?

▶︎高文連の専門部長会議には県教委の部活動担当者が出席し、県の高文祭には教育長をはじめ、上層部が来賓として鑑賞されます。一言で言えば、「公的な団体」として認知されるわけです。先日、県の総文祭があり、前座という形ですが、当校の生徒が軽音楽専門部として演奏してきました。錚々たる顔ぶれが揃う中で演奏し、「軽音楽部ってこういう感じなんだね」と、知ってもらうことがまず大事だと思います。もちろんリスクもありますが(笑)、ちゃんとアピールしていかないと、まったく相手にされないまま終わってしまう可能性もありますから。

— 金銭的なメリットもありますね

▶︎はい。専門部設置の最も大きなメリットは金銭的なことです。予算がつき、活動が「出張」になります。そこが保証されていないために、組織に入るのをためらっている方も多いと聞きます。組織的な動きを目指して欲しい理由の1つはここです。また、大会を開くのに生徒に大きな負担をかけたり、パンフレットを手作りしなくて良くなったことも大きいですね。そういう状況は決して良いことではないので…。今、応援していただけている方々がいなくなってからでは、次のステップへ進むことがさらに難しくなるかもしれません。軽音楽部の活動や今の姿を知らない人が多いことをチャンスと捉えて、教育現場の上の方たちの認識を新たにする機会を増やすことが重要なのだと思います。

軽音楽専門部となったことで生まれた変化

  1. 加盟校の全顧問が、顧問会、研修会、大会に参加する際に出張扱いとなる。
  2. 部員たちの部活動参加中、及び移動中の事故や怪我に対して、学生団体保険が適用対象となる。
  3. 専門部主催の2大大会(県大会、新人大会)開催用に、助成金名目で予算が計上されるようになる。
  4. 高文連の専門部長会議に、他の専門部とともに出席し、対等の扱いをしてもらえるようになる。
  5. 全国高等学校総合文化祭軽音楽(協賛)部門、及び全国高等学校軽音楽コンテスト出場に際して、専門部選出のバンドが県代表として正式に認可される。
  6. 県高文連主催「静岡県高等学校総合文化祭」への出場が認められる。
  7. 毎年度末に発行される高文連の年報に、軽音楽専門部の活動が紹介される。

地道な活動が大切

— 具体的にはどのような活動をしていけば良いでしょうか?

▶︎まずは、校長先生を1人味方につけることです。私の場合も、当校前任の杉山校長先生のご理解とご協力が大きな力になりました。地方県の場合、私学校は数も少なく別な組織でもあるので、県下の学校に活動を浸透させていったり、後に高文連に認めてもらえるようにしていくためには、やはり公立校の校長先生にお力を借りる方が良いと思います。

— 上から攻める、ということですね

▶︎はい。しかし、同時に「下からの掘り起こし」も大切です。専門部が設置された静岡県でも、大会や講習会に参加されない学校もあります。そのあたりは顧問次第なので、それこそ草の根運動じゃありませんが、自分で連絡したり、地道にやっていくしかないと思います。フラれることも多いですが(笑)、それによって参加してくれるようになった学校もありますからね。それに、たとえ数は少なくても、校長先生にきちんと「こういうことをやりました」「こんなことをしました」と報告して、実績として挙げていくことが大事なことだと思っています。教育委員会に講演をお願いするとか、活動を新聞社に記事にしてもらうとか…、そんなようなことがあると徐々に認知度も上がっていくはずです。

趣味バンドとの違いを明確にする

— 未だに軽音楽部の評価は低いと感じます

▶︎演奏経験を積むためとはいえ、校外活動バンドと混然一体となってしまうライブハウスへの出演を良しとしてはいけません。それは、チケット販売などの生徒間での金銭のやり取りが関わっていることも問題ですが、顧問が管理していないところで何か起こってしまった場合のリスクが大きいからです。当校では、音楽部の部員がライブハウスへ出演することを許可していません。もちろん、学校の状況や顧問の考え方は様々なので、静岡県でも統一された意見ではありませんが、専門部としては、ライブの機会や講習会の回数を多くしていったり、生徒が来たくなる魅力的な運営をしていくなど、「部活動らしさ」を出すことによって、自然とそういう場所に出たいと思わないようにさせていきたいと考えています。

— 軽音楽部は「部活動」ですからね

▶︎例えば、野球部が顧問の許諾なく勝手に練習試合に出かけたり、趣味の社会人チームと対戦することはありません。軽音楽部も同様です。学校に認可されなかった時代の「趣味バンド」の体質を引きずっていたのでは、名称こそ「軽音楽部」となっても、実態は長年続く「バンド活動は学校現場には馴染まない」といった固定観念を払拭させることはできません。軽音楽部と趣味バンドの違いを明確にすることこそが、軽音楽部の未来に最も必要なことだと思います。しかし、生徒たちの「人前で演奏したい」という至極当然な欲求を満たすには、顧問の主導で演奏の機会をたくさん企画し、発信していく必要があります。そのためには顧問間の横の連携が不可欠です。また、自分たちだけでは何をどうしたら良いのか…と、お悩みを持たれる場合には、ライブハウスのお手軽な企画に便乗するのではなく、ぜひデジレコさん(軽音協)に相談してみてください。部活動という視点を理解された見識から、具体的なアドバイスや実践メニューを示してくださるはずです。私自身も、暗中模索の状態からここまで来られたのは、デジレコさんのサポートあってのことです。きっと道は開けます!

学校名の看板を背負っている

— 校内での周知活動も必要だと思います

▶︎学校の教師である顧問が考えるべきは、「学校でバンド活動を行うことが単なる放課後の娯楽であってはならない」という点です。それは、どうしたら軽音楽部に対する評価を上げられて、軽音楽部の存在意義を校内で認知してもらうか、と換言できます。部活動として取り組む以上は、他の部活動と同様に、学校のルールの下できちんとした目的意識を持つことが必要です。まず、入部希望の生徒たちに、そうした志を共有できるかを質すべきだと思います。軽音楽部が、ライブハウス出演のためや文化祭でのバンド発表のために無料練習場を校内で提供する場であってはいけません。「部活動は学校名の看板を背負って活動している。そのおかげで活動が保証されている」。これは、私がことあるごとに部員たちに伝えている言葉です。また、もちろん同時に保護者への対応も大切です。活動報告や会計報告をきちんとすることで、しっかりと運営されている部活動だと認めてくれます。

— 地域活動も活発にされていると伺いました

▶︎はい。「軽音楽部も地域活動に参加しよう!」というのが、私が掲げるもう1つの目標です。県教委の「部活動を通した地域貢献に積極的に取り組もう」というスローガンのもと、音楽部の存在意義を見出せるのではないかと考えました。結果、ある施設の秋祭りイベントでの演奏の機会をいただき、現在では秋祭り全体の音響業務も担当しています。他に、学区のお祭りや、市役所とのコラボでJR駅前再開発完成記念式典の音響業務も担いました。こうした活動への感謝の言葉が学校管理職に寄せられることが増えて、少しずつ高評価な校内世論が形成されるようになりました。今では「爆音を出す迷惑な連中」とのレッテルから脱却しつつあると自負しています。一昨年度、静岡県青少年育成会議で県知事表彰を受けたことも大きな追い風となり、以降の学校行事でも、文化祭のステージの全体運営、体験入学での音響、体育大会の本部放送業務など、音楽部の活躍の場を増やしています。

— 進路担当のお立場からはいかがですか?

▶︎先日、高文祭に出演した部員から「今日のことは調査書に載りますか?」と聞かれました。高校生の進路アピールでかなりのウエイトを占めるのが部活動です。部活動で頑張ったこと、大会に出場したこと、地域イベントに参加したことなどは当然アピールになり、調査書にも反映されます。しかし、外部バンドでの活動はなりません。2020年からの調査書の書式変更にも、軽音楽部としての活動は有利に働くのではないかと思っています。

線香花火の火をつなげていく

— 最近、軽音楽部を部活動として運営していくためには?という質問が増えています

▶︎良い傾向だと思います。私の場合も、最初から志高く軽音楽部に取り組んできたわけではありません。もともとは廃部が決まっていた音楽部を、当時の教頭から「ヤンチャな生徒たちの激情のはけ口としてうまく活用して欲しい」と、非常に面倒な依頼を受けたのが始まりでした。自分には音楽を専門的に指導できる素養が備わっていないので、ただただ生徒たちの話に耳を傾ける中から、「顧問として何ができるのか」「どうしたら真っ当な部活動として扱ってもらえるようになるのか」を、押したり引いたりしながら年月を費やしてきたに過ぎません。しかし、そうした中で芽生えた、「軽音楽部としての立場を上げていくためには、他の部活動同様に組織立った活動が不可欠だ」との思いに忠実に動いてきたことだけは間違いありません。学校単位で好きなように活動を展開できていれば良い、との考え方からの脱皮は、確かに多くの労苦を強いられることになるでしょう。だからこそ、志を同じくする方々との連携が不可欠なのです。1人で頑張っていると孤独で、辛いものがあります。線香花火の小さな火をリレーしていくつもりで、きっかけを作っていくしかありません。私もそうでしたが、一歩踏み込んでみないとわからないことがたくさんありますから。

— 地道な努力が必要なんですね

▶︎地元の音楽関係者たちのご支援もたくさんあったので、とてもありがたかったです。しかし、何よりも心強かったのは、組織化へのノウハウをアドバイスしてくださった東京都、神奈川県、大阪府、滋賀県の諸先輩方です。人脈の大切さを痛感しています。このインタビュー記事が少しでも軽音楽部の活動の見直しと活性化を模索する全国の先生方のお役に立つことができれば幸いです。静岡県も、今後さらに組織を堅固にしていかなくてはなりません。挑戦はまだまだ始まったばかりです。生徒たちに部活動でしか味わえないことをたくさん体験させてあげられるように、お互いに頑張りましょう!

「すべては生徒のために」と熱く語られる小澤先生

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