顧問はかく語りき – 神奈川県立麻溝台高等学校 軽音楽部顧問 志方大悟先生

有名な大学病院や美術大学のキャンパス、自然あふれる公園やスポーツセンター、大手自動車工場などで賑わう神奈川県相模原市麻溝台。強豪・神奈川県立麻溝台高校の軽音楽部顧問をされている志方先生は、「新しい軽音楽部」の運営を模索し、実行されています。

「不自由でもやりたい」生徒だけ

ー 今年度、入部をかなり絞ったと伺いました。

▶はい。最初は30~40人ほど希望者がいたのですが、自由にやりたいか、不自由でも良いかを訊いて、「不自由でもやりたい」と残ったのが7名です。神奈川に来て9年目なのですが、前任校でも本校でも顧問を任された時に感じたのは、生徒が自由を履き違えているなということでした。好き勝手にやりたいことだけをやるのではなく、部活動として、しっかりとした運営を部員たちでできるようにしたいと思いました。上級生は、現在2年生が9名、3年生が11名です。少数ですが揉めごとが多くて…(笑)。

ー どちらもそんな感じですよ。

▶本校に赴任して顧問になった時に、他のバンドからメンバーを引っこ抜いたり、解散、脱退も自由だと部員から聞いたんです。それで看板バンドみたいなものはできていたんですが、何かそれって怖いなと。せっかくの成長の場なのにもったいないなと思ったんです。それで、今は基本的に解散する場合は退部かパートを変えて継続、ということにしています。

ー 校内の軽音楽部の地位はいかがですか?

▶学校からは「頑張っている部活動」という認知はしてもらっています。大会での成績を全校生徒の前で表彰してもらっていたからかもしれませんが、最近の方が応援していただいている方は多くなったと感じています。

教師の醍醐味であり楽しさです

ー 顧問として大事にされていることは?

▶︎生徒には、「生きる力」というか、社会に出て人と関わる力、協力し合える力を学んで欲しいと思っています。何かふわふわしたものから「音」に具体化していって、さらにライブで人に伝わるようにする…って、すごく大変なことじゃないですか。その過程で必要とされるのは、まさに「生きる力」だと思うんです。そこを、スキルとか技術とかを求めるように持っていきたくはない、っていうのはありますね。

ー 先生はギターをやられるんですよね。

▶︎小学校からギターはやっていたのですが、自分の指導の基本スタンスは「自分でできることはまず自分でやろう」なので、はじめに基本をほんのちょっと教えるだけです。たぶん、私がギターを弾けるって知らない部員もいると思います(笑)。スキルの向上は自分でもできることですから、それよりも、挨拶をする、時間を守る、ルールやマナーを守る、相手に対して尊敬の念を持つ…といったことを大事にしています。これは、当校の部則としても掲げていることです。

ー 全国の軽音楽部がそういう方向に向いてくれると良いですね。

▶︎それが、教師の醍醐味であり、楽しさです。例えば、バンド内で意見を言い合う時の言葉使いや、人の努力とか個性を尊重するコミュニケーションの取り方を教えるのも教師の仕事だと思います。オリジナル楽曲を作るにしても、「全員で作る」っていう考え方をして欲しくて、演奏を部員同士で批評し合ったり、最近では保護者に聴かせて意見を訊いてみよう、ということもやっています。いろんな人のアドバイスがあってこの1曲ができたんだと思ってもらいたくて…。そうしたら、2年生が作詞・作曲者のクレジットを個人名ではなくバンド名にするようになったり、以前より合同演奏会に保護者が来てくれるようになりました。

ー あえて保護者を巻き込むのですね。

▶︎軽音楽部での彼らには、普段保護者や周りに見せないピュアな姿があります。それをステージや音源で出して欲しいと思っています。特にオリジナル楽曲を作る時には、個性的であることよりも、「自分」を出せるように持っていっています。個性はもともと違うものですから。

柱を残しながら時代に柔軟に

ー 普段はどのような指導をされていますか?

▶いま、卒業生が部活動インストラクターとして、週1回土曜日にコーチに来てくれています。彼女はキーボーディストなんですが、1年生の時から曲作りなどでもいろいろ悩んで成長してきた子で、僕もよく関わって教えてきていた生徒だったので、部員には自分のところに来る前に、まずコーチのところに行きなさいと言っています。活動は部長、副部長、バンド・リーダー、卒業生のコーチでうまく回していって欲しいと思っています。部員が「軽音楽部で良かった」と思って卒業したのであれば、そういった流れも伝統化していきたいですね。でも、ずっといると顧問の代わりみたいになっちゃっうので、2年周期ぐらいでコーチは入れ替えた方が良いと思っています。実は、すでに「次のコーチは君ね」と言ってある部員がいて、今のコーチからいろいろ学ばせています。そういったサイクルができれば、「部員の立場を経験したコーチ」の目線で指導することができるし、顧問が変わっても「今まではこうだったんですけど、どうしますか」と、新しい顧問に判断を委ねられるようになると思います。

ー 顧問が変わると活動内容や考え方が変わってしまう学校が多いようです。

▶この学校の顧問になった最初の年に、当時の上級生から「何も教えてもらわなくて良いです」って言われたんです(笑)。驚きましたけど、頼もしいなとも思いました。ただ、部員が自分たちだけで何とかしようと思っていることはとても大事なんですが、他校との合同演奏会や大会などに参加するには顧問のサポートが必要だし、学校の機材や教室を使っているわけなので、そこのところを履き違えて何でも自由だと思っちゃうとダメだと思うんです。お金に関しても、部員の前で部費を清算したり、振り込みに会計係を連れていったりしています。顧問が何をしているのかを教えておかないと、やってもらえて当たり前になっちゃいますから。

ー 学校があっての部活動ですからね。良い伝統が守られ、永く続いて欲しいと思います。

▶活動方法や部則など、前任の先生の時代から苦労して作ってこられた麻溝台高校軽音楽部の「柱」みたいなものは大事にしたいと思っています。伝統を尊重して、良いものはそのまま残し、でも、時代のニーズに合わせて柔軟に変更していくことも大切です。自分が転任した後も、そういった考え方を引き継いでいって欲しいと部員に伝えています。

楽器を使わない指導の方が質が高い

ー まさに「That’s 部活動」ですね。ご自身でも技術指導できるのに「仕組み作り」の方に一生懸命になられている理由は?

▶︎大きいのは「何もしなくて良い」と生徒に言われたことですが(笑)、前任校では、教師になって初めての学校だったということもあり、自分はギターを持って視聴覚室にいて、全バンドと一緒に音を出して細かく指導していたんです。単純にそれが楽しかったからなんですが、転任が決まって後任の先生に引き継いだ時にうまくシフトしなくて…。今では楽器を使っての指導よりも「楽器を使わない指導」の方が質が高いというか、グレードが高いというか、やりがいがあると感じています。部員の音楽のスキルを伸ばすアドバイス以上に、その生徒の良さやどうしたいのかを一緒に考えてあげる時間の方が断然重要だと思います。

ー 全国には楽器経験がなくて、困っていらっしゃる先生方がたくさんいます。

▶︎多くの方が普段音楽を聴いていると思うので、技術指導をしなければ軽音楽部の顧問は誰でもできるはずなんです。どういう楽曲に取り組むのか、どういう楽曲を作るのか、といった時点で一緒に考えてあげれば、クリニックなどでアドバイスをもらった時にも、一緒に悩んであげられると思います。軽音楽部は自主性と創作性も大事なので、音楽的な専門用語を使わなくても、「そのフレーズ何かかっこ良い」で良いと思います。楽器やバンドの経験があるから良いかというとそうでもなくて、逆に知らない間に生徒をどんどん否定してしまっていて、ネガティブな感情が部全体に蔓延してた、なんてことも過去にはありました。1曲でも好きな楽曲があるのであれば、音楽の何か良い部分を感じ取っているはずですから、その感性で良いと思います。生徒を育てたい気持ちと、音楽が好きという気持ちが自分の原動力なのですが、生徒それぞれがどうすれば成長するかを考えて関わっていけば、彼らのモチベーションが変わり、生徒の音楽は変わっていきます。

顧問のしんどさは教師のしんどさ

ー 今後の「軽音楽部」について。

▶︎軽音楽部って、顧問としてのめり込めば込むほど本当にしんどいんです(笑)。ただ、それは「人間教育」だからっていうことなので、教師としてのしんどさと同じなんですけどね。顧問の皆さんで集まったり大会などで親睦会がある時には、つい愚痴をこぼしてしまいます。

ー 部活動は教育の一環ですからね。

▶︎自分は、生徒の受賞歴や活動をエントリー・シートにどんどん書かせているんです。神奈川県でもまだ「バンド」なイメージで軽音楽部を捉えられている人も多いですが、今年役所に勤めることになった卒業生が、「面接官が音楽好きで話しやすかった」と言っていました。少しずつ変わってきているように思います。

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