「顧問の引き継ぎ」に関すること

自校の取り組みや活動理念、事例発表などを軽音楽部の顧問の先生からの投稿やインタビューにて紹介します。(2020/5/顧問通信 VOL.29掲載)

「顧問の引き継ぎ」に関すること

【東京都】東京都立足立新田高等学校 軽音楽部 顧問 榎本充男

スタンスや考え方は引き継げない

軽音楽部顧問の引き継ぎは、基本的に無理だと思っています。後任の先生に「こういう風にやってきました」ということは伝えられると思いますが、まず、軽音楽部の場合は力を入れてやりたいという方も多くないし、やる気のある方が異動してきたとしても自分のペースでやりたいだろうし…。前任者のやり方をそのまま引き継ぐというのは、無理なんじゃないかなと思います。

自分もいくつかの学校で軽音楽部の顧問をやってきましたが、必ず最初は生徒とぶつかるし、やはり2年から3年かかって生徒が入れ替わると、やっと自分の伝えたいことが伝えられるようになってくる感じですね。今の学校でも、前任の先生は大会に引率するぐらいの関わり方だったようで、「ミーティングやるよ」と言っても「俺は出ないよ」って部長が帰っちゃうぐらい、最初は反発がありました。でも、秋ぐらいに演奏を見たら棒立ちで歌ってるんで、「ステージングは?」って聞いたら、「ステージングって何ですか?」と言うんですよ。それで、1日だけ話聞いてくれって言って、前任校の卒業生を連れてきていろいろアドバイスしてもらったんです。それから少しずつ話すようになりました。

でも、しっかりと部活動として活動できるようになったのは、翌年に1年生が入ってきてからですかね。「ここからは手を出すな」と上級生に言って…(笑)。彼らは「俺たちはコピーしかやんないから」なんて言ってたんですけど、私はせっかく芸術をやっているんだから絵を描くのと同じようにオリジナル曲を作って欲しかったし、東京都の大会ではオリジナル曲で参加する学校が多かったので、1年生には推奨してました。クラシックと違って、ロックは自分の言葉やパフォーマンスで自分を表現できるし、音響や照明などを加えて総合的に音楽を作っていくって楽しいよ、ていうことが少しずつ浸透していった感じです。赴任した時の年齢もあると思うんですが、音楽、楽器、機材に対しての想いなども含め、やはり、そういった自分のスタンスや考え方は引き継げないし、顧問それぞれで違っていて良いとも思うんです。

継ぐ人がいなければ寂れていく

部活動運営には、学力との関係も大きいと思っています。一概には言えませんが、比較的勉強を集中してできる生徒は、音楽をやっても集中力があります。もちろん、勉強が苦手でも音楽にズバ抜けている生徒もいますが、全体的に平均して見ると、集中して練習に打ち込めなかったり、一番は、考えて行動するクセがついていない気がします。例えば、自分にはこういうことが足りない、じゃあどうすれば良いだろう…という、何のためにこういう練習が必要なのかを考えて練習していくのが苦手な生徒が多いですね。

でも、部活動の中でその辺を身につけていってくれることもあります。音楽だけにはすごく集中できるようになって、急に伸びる生徒も2年生ぐらいになると出てきます。そうすると結果もついてくるので、より成長していきます。ただ、それが勉強の方に反映されるかというと、なかなか難しい部分もあるんですけどね…。でも、目標を考えてそれに向かうことができるようになってくれば変わってくる、という実感はあります。

最初に顧問をした学校では、あまり熱心に取り組んではいなく、部活動らしい活動もしていませんでした。次の学校では、やりたいという生徒がいたので私が軽音楽部を作ったんですが、職員会議を通すのが大変で、いろいろな条件をつけられました。絶対に窓を開けないとか、アンプは30ワットを使ってボリュームはここまでとか、細かく決めた案を作り、認めてもらいました。でも、最初の生徒たちはその苦労がわかっていたので、一生懸命にやってたんですけど、数年経つと「あって当たり前」になるので、やりたい放題に乱れてきますね。もう顧問なんて辞めてやろうかなんて思うこともありましたが、一緒に顧問をやっている先生から説得されて考え直しました。自分が異動した後もその先生がいらしたので部活動としては続いていましたが、その先生がいなくなった後は寂れちゃいましたね。機材も私が購入したものをずっと使っていたようですし、やはり、継ぐ人がいないと寂れていっちゃうんですよ、厄介者扱いですから。

時間をかけて指導をする

部活動指導員や外部指導員に、イズムを引き継がせることも難しいと思います。当校は今、前任校の卒業生2人に外部指導員を頼んでいて、2人とも私のやり方をわかってくれているので任せていますが、運営に関する不用意な発言を軽い気持ちでしてしまうこともあるんです。長い時間かかって作り上げてきたものを一瞬で崩されかねない。顧問が考えている方向性をある程度わかっている人でもそうなので、指導方針などをそのまま引き継ぐっていうのは、やはりかなり難しいと思います。それに、自分がいなくなった時に、次の顧問との相性なんかも問題になるかもしれません。今のコーチは、私がいるからやりたいって言ってくれて来てもらってるんですけど、残ったとしてもどうなるかはわからないですからね。

私立高校などの場合、顧問の先生も長くいて指導員もいて…という環境だと可能かもしれませんが、単に技術指導だけではなく、部の運営全体についてどんな方向で、何を目指していくのかまでを、ちゃんと理解してやることはそんなに簡単じゃない。それに、東京都の場合は予算も少なく、勤務時間も少ないので、やりたくてもできないっていうところもありますね。そうなると、やはり自分の伝えたいことを自分で伝えていくしかない。

軽音楽部は、初心者が多いので、特に1年生は時間をかけないと指導できないんですよ。まあ、集中力がないっていうこともありますが、時間をかけることで何とかしているという部分もあります。当校は部活動に力を入れている学校なので、部活動の時間が長くても文句を言う生徒はほとんどいません。一生懸命に時間をかけて、達成感を味わってくれれば良いと思っています。文化庁の言うガイドラインもわかるんですけどね。

顧問が自分でやっていくこと

軽音楽部の地位は、やはり周りの先生方に理解してもらうことが大事だと思います。それが予算や練習場所の確保などにもつながっていきますから。「軽音楽部は遅刻が多い」とか「赤点が多い」とか言われたくないし、合同ライブを開催した時に「あの学校に行きたくない」って言われたくないですからね。もちろん、こちらが出向いて行く時や大会の時なんかは、「服装に絶対気をつけろ」と厳しく言っています。でもそれは、学校として力を入れているところでもあり、私の方針と同じだったというだけなんですけど、それが校内でも認められている部分の1つだと思います。そういったことは、上から言われたからではなく、ロック=だらしないというイメージを払拭するためにも、顧問が自分でやっていかなくてはならないことだと思います。その辺りも引き継ぎの時に大事になってきますが、どこまでっていうラインは学校ごとによるので、その学校に合わせてやるべきことだと思います。

未だに「軽音楽部なんて作らせない」って学校もありますし、作ることができても周りからの反発があったりするのが現実ですからね。高文連の専門部を設置するなどの中央突破することと、現場で「こんなに真面目にやってるんだよ」ってアピールしていくこと、両方のバランスが大事なんだと思います。大会などで活躍して結果が出てきたり、区のイベントに参加したりしていくと、周囲の目も変わってきます。それに、参加できること、やらせてもらえる環境を与えてもらえていることへの感謝の気持ちを生徒に持たせることも大事だと思います。それがまた観客に伝われば、「ロックは不良」じゃなくなっていくと思うんです。

顧問は「教員の部活」

軽音楽部は「学校の中の部活動であり、部活動の中のバンドであり、バンドの中の個人」という考えじゃないと成り立たないし、周りからも認められないんじゃないかと思います。それは、入部説明会でも言っていることなんですが、大きく言えば、そのことだけを守っていれば、ほとんどが初心者な軽音楽部では、どんな方でも部活動をプロデュースしていくことは可能かもしれません。しかし、教師の出勤がフレックスになったり、こっちの仕事はしなくても良いよ、とかにならない限り、今の状態では圧倒的に時間が足りません。

一顧問の立場では、次期顧問の人選や部活動指導員の確保などはどうにかなるものでもないので、校長にアピールしておくぐらいしかできないんですが、でも「軽音楽部の先生がいなくなるから軽音に強い人を…」っていう希望は、運動部なんかに比べると通りにくいですよね。副顧問がいたとしても掛け持ちがあったり、熱心な先生でも子育てや介護があるなんて場合もあるし、先に異動してしまうかもしれない…。いろいろな問題が絡んでくるんです。今後、教科の講師みたいに、部活動指導員として65歳以上の職を確保するってことも、行政は多少考えていると思いますけど…。

生徒に対して「こうしたい」という気持ちがなければ顧問はできないし、私なんかは、顧問は「教員の部活」だと思っているのですが、それを理解してって言ってもできるもんじゃないですからね。後任の顧問には、その人のやり方があるでしょうから、校則と大会のルールを守らせるってこと以外に強制はできませんよね。私立だと、校風や学校のカラーみたいなものがあるし、中高一貫の場合はよりそれが浸透していて、先輩に憧れて入部してくる気持ちも強いと思うんです。OBOGが来やすい環境ってのも大きいかな。当校のコーチも私だから来てくれている感じなんですが、「人に付く」っていうんですかね、その先生のやり方が好きだからって部分は大きいんじゃないでしょうか。

甲子園のような全軽音楽部が目指すような目標ができればまた違うとは思います。学校やバンド、個人によって道筋は違うかもしれないけど、同じ方向を皆んなが向いているというのは強いと思うんです。目標があれば、顧問が変わったとしてもモチベーションは変わらず維持できると思います。物理的な地域差があったり、ルールの違いなどがあるのでなかなか難しいと思いますが、少しでも広がっていくと良いですね。でも、生徒たちが自由に表現することと、その自由を守るためにきちんとやるべきことをやっているか…、その様子を見ながら顧問は工夫してバランスを取っているんです。で、それは学校によってやり方が違うし、地域によって、あるいは学力や経済状況によっても違う…。道は長いですね。

やはり、解決策は見えませんね(笑)。特に、私の場合は特殊例なんで参考にならないんじゃないかと思うんですが、1つの事例だと考えていただければと思います。(インタビュー)

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