第6回 ボーカルの表情のつけ方・3

どんなスタイルの歌い方にも求められるボーカル・テクニックが「感情表現」です。音程の正確さや発声の技術といった基礎的なテクニックだけではなく、「歌詞の世界観に合った感情表現」や「声の強弱による感情表現」を身につけることによって、ロック、ポップス、R&Bなどの様々なジャンルに役立ちます。(文・伊丹谷良介)

STEP1   歌詞の世界観に合った感情表現のテクニック

ボーカルの感情表現のつけ方の中でも、歌詞の世界観に合った表現のテクニックは大変重要です。特に、初心者のボーカリストは歌うことに精一杯になって、ついメロディーを単調に歌ってしまったり、正確な音程で歌うことだけに集中してしまいがちです。歌詞の世界観を声の音色の違いや強弱、音量の大小で細かく歌い分け、抑揚をつけることで、ボーカリストの感情が聴き手により伝わります。

それらの歌唱テクニックをブラッシュ・アップさせることで、歌の表現力を一気に高めることができますが、ボーカルの基礎である「正しい発声」や 「リズム・キープ」をしっかりと練習していないと、せっかくの表現力も効果が薄くなってしまいます。基礎練習と共に、感情表現のテクニックを身につけていきましょう。

歌詞を朗読する

まず、自分が歌う楽曲の歌詞を黙読して、しっかりと歌詞の世界観を自分なりに理解しましょう。歌詞の意味を十分に理解したら、次に少し大げさなくらいの「喋り口調」で朗読します。この時、お経のように淡々と歌詞を朗読するのではなく、喋るように抑揚をつけて、テンション高く感情を高ぶらせて読んでみてください。すると、普段の会話では意外と声に抑揚をつけて喋っていることに気づきます。メロディーを無視して喋るように歌詞を読んでみると、無意識に弱く読んだり、強く読んだり、速く読んだり、遅く読んだり、笑った顔で読んだり、怒った顔で読んだり…と、自然に感情表現が生まれ、自分なりに喜怒哀楽を感じながら抑揚をつけて読み上げられるはずです。朗読した自分の声を録音して、どんな風に自分が抑揚をつけているのかを聴き返してみるとよくわかると思います。

▲歌詞を喋り口調で読み上げ、手を使い、できるだけオーバー・アクションで感情を高ぶらせて読んでみよう

コピー曲でもオリジナル曲の場合でも、独自の「歌詞カード(ノート)」を作ることはとても効果的です。自作の歌詞カードに細かく感情表現のメモを書き込んで、それを見ながら歌うことで、自然と歌に世界観と表現力がついていきます。それぞれ感じたまま、自分なりに抑揚をつけて歌ってみましょう。

自分の歌を録音してみる

細かい感情表現をコントロールできるようになるには、まず自分の歌い方を知ることが大切です。自分が歌っている声を何度も録音して客観的に聴いてみましょう。自分の歌声に聴き慣れていないうちは少し抵抗があるかもしれませんが、何度も聴いているうちにすぐに慣れてきます。録音したものを聴き返して、「もっとここは強く歌いたい」「もっとここは優しく歌いたい」「この歌詞の母音を強くしたい」「この歌詞の語尾でビブラートをかけたい」…など、思ったことを歌詞カードにどんどん書き込んでいきましょう。次に歌う時に、そのメモの内容を注意して歌うようにすることで上達が期待できます。

既存曲のボーカルをコピーする場合、そのボーカリストがどういう風に歌っているのかを細かく聴き込むことも大切です。「上達はモノマネから始まる」という人もいるぐらいですから、原曲を何度も部分的にリピート再生して、歌い方を参考に真似してみるのも良い練習になります。最近では、再生スピードを変えられるスマートフォンの無料アプリもたくさんあるので、音楽や歌の研究のために使ってみるのも良いでしょう。

 

STEP2   発声のコントロールによる感情表現のテクニック

感情表現からの基本的な「抑揚をつけること」ができるようになったら、同時に「発声の強弱によるコントロール」を行えるようになることも目指しましょう。発声の細かいコントロールをするには、音の高低や長短をコントロールする他に、「音量の大小によるコントロール」を行う方法があります。

声の大きさをコントロールする

メロディーの動きに関係なく声の音量に変化をつけることは、歌に表情をつけるためにとても重要なことです。音量をコントロールすることで、歌の抑揚に磨きがかかります。

練習方法としては、まず自分が発声しやすい音程で構わないので、同じ音程のままロング・トーンをクレッシェンド(だんだん大きく)したり、デクレッシェンド(だんだん小さく)したりと、音量に差をつけて発声してみてください。例えば、「あー」という発声を、無音の状態からクレッシェンドで徐々に大きくしていき、最大音量までいったらそのままデクレッシェンドでだんだん小さくしてみましょう(譜例1)。ポイントは、音量に綺麗なグラデーションをつけてコントロールできるようにすることです。メトロノームを使い、テンポや小節数を決めて規則的にできるように練習してください。

譜例1 メトロノームを使って、ゆっくりなテンポの好きな音程でやってみよう。ブレスはせず、一息で行おう

初心者の場合、低い音程は声が小さく、高い音は声が大きくなる傾向があります。いろいろな音程で行って、低い音程を大きな音で発声したり、高い音程を小さく発声する練習も行ってください。声の表現力が増します。

強弱をコントロールする

声に強弱をつけるには、主に「①声に癖をつけて歌う発音の強弱」「②リズムのアクセントに合わせる強弱」「③ボリュームの強弱」の3種類があります。まずは、楽曲が持つグルーヴをよく聴き分けて、全体的なリズム感を掴むことが基本ですが、①から③の組み合わせを細かく意識して歌うことで、音楽的な「強弱の感覚」がより敏感になり、表現力の高い歌を歌うことができます。

▲音量調整中も常に腹式呼吸での発声を心がけよう

図1を参考に、歌詞カードに「ppp、pp、p、mp、mf、f、ff、fff」などといった音量の大小を細かく書き込んで、それを見ながら歌ってみたり、他にもアクセント、または歌い方や発声のキャラクターなどをメモ書きのように記入しておくことも効果的です。

図1  歌い方の強弱の構想を練ることも表現の第一歩

ボーカリストにとって大切なのは、歌に気持ちを込めるというメンタルな部分と、歌うという「発声」の技術力を両方高めることです。人に伝わる表現力が身につきます。

マイクの距離で音量をコントロール!

テクニックとして、マイクと口の距離で声のボリューム調整をすることができます。マイクとの距離や角度を考えないで歌ってしまうと、結果的に出力される声にバラツキが出て、聴いている人には心地良くない音量になってしまいがちです。例えば、低い音程のAメロは口をグリルと密着するくらい近づけて歌い、Bメロでは指1本か2本分くらいの距離をあけ、声を張り上げるサビでは拳1つ分くらい離して歌うなど、マイクに入力される音量を口との距離で安定させる練習もしておきましょう。

マイクの響きは言葉の母音と子音によって変わるので、慣れてきたら言葉に合わせてマイクの距離の変化をつけてみるのも良いでしょう。自分の好きなバンドや歌手を参考にして、どれくらいマイクの距離をとって歌っているのかなどをぜひ研究してみてください。

▲マイクの使い方も大事な「テクニック」の1つです

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