第5回 ボーカルの表情のつけ方・2

ロック風、ポップス風、R&B風…と、歌い方には様々なスタイルがありますが、どんなジャンルや曲調にも求められるボーカル・テクニックの1つが「表情のつけ方」です。様々なジャンルに共通してマスターすべき口の動かし方である「母音と子音」や「滑舌」のトレーニングをして、表情が豊かに歌えるボーカリストを目指しましょう。(文・伊丹谷良介)

STEP1   母音と子音の発音トレーニング

ボーカル初心者が、つい曖昧にしてしまうのが「母音」と「子音」の発声です。普段喋っている時のような母音と子音で歌っていると、言葉がぼやけて歌詞が伝わりにくくなってしまいます。歌う時の母音や子音の発声を見直すことで、歌の輪郭がはっきりとして、表現力を一気にアップさせることができます。ただし、ボーカルの基礎である「正しい発声」や「リズム・キープ」をしっかりと練習していないと、せっかくの表現力も効果が薄くなってしまいます。基礎練習と一緒に表現力のテクニックを身につけましょう。

母音のトレーニング

母音のトレーニングとして有効なのは、普段喋っている時の何倍もの速さであご・唇・歯を大げさに動かしたり、逆にゆっくり動かしたりして、口の動きの違いをじっくりと確認することです。

日本語の母音「あ・い・う・え・お」の5種類で確認してみましょう(写真1)。「あ」の場合は、下あごを十分に開いて舌の中央下部に力が入ることを意識します。「い」は、あごをほとんど開かずに口を横に引っ張るようにして、舌先を上あごに近づけます。「う」は、あごをほとんど開かずに唇をすぼめて、舌の奥を盛り上げて唇に振動を感じるくらい強く発声させます。「え」は、あごを「あ」と「い」の中間くらいで開いて、舌の前部に力が入るように意識します。「お」は、あごを「え」と同じくらいに開き、唇を絞って丸め舌の奥を盛り上げます。「あ」「い」「え」は、きれいに発音しやすいと思いますが、「う」や「お」は口を閉じる系統の発音なので、閉じすぎないように心がけましょう。

写真1 左から「あ・い・う・え・お」の口の形。しっかりと形を作って発声してみよう

普段は何げなく行っていても、意識してみると意外とできていないことが多いものです。トレーニングをする時は、自分の口を鏡に映してよく動きを確認しながら発声してみてください。例えば、5種類の口の形を写真に撮って、あとで写真を見ただけで何の母音を発声したかがわかるぐらいが理想です。

子音を加えたトレーニング

日本語には、子音「K・S・T・N・H・M・Y・R・W・G・Z・D・B・P」があり、これらに5種類の母音「a、i、u、e、o」を組み合わせて発声しています。例えば、子音「B」と母音「あ(a)」を組み合わせると「ば(Ba)」になります。同じように他の母音も組み合わせて、共通して響く子音「B」を感じて発声してみましょう。この時に、5つの言葉でしっかりと唇が動いているかをチェックしてください。唇を動かさないと「ば(Ba)・び(Bi)・ぶ(Bu)・べ(Be)・ぼ(Bo)」がまったく発声できないことに気づくと思います。子音「B」の場合は、唇を大げさにしっかりと動かせば、歌の輪郭がはっきりして歌詞も聴きとりやすくなります。

他に、子音「S」は歯、「R」は舌がポイントになっています。すべての子音に対して「口のどの部分がポイントなのか」を意識して、発声トレーニングを続けてください。

 

STEP2   滑舌のトレーニング

歌の表情のつけ方を追求していくと、誰でも「滑舌を良くしたい」と思うようになってきます。歌っている時の滑舌は、意外と自分で思っているよりも悪いことが多く、意識しなければ直らないものです。しかし、そこに着目できただけ成長したのだとも言えます。

滑舌の矯正トレーニング

滑舌が悪い原因は、自分の歌いたい歌詞のイメージが頭の中でしっかりとできていないことと、唇・あご・喉・舌といった部分に必要な力の配分ができず、口を開けすぎていたり無駄な力が入ったりしていることがほとんどです。この2つの原因を解決するためには、4ステップの矯正トレーニングが有効です。

まず1ステップ目は、滑舌が悪く感じる歌詞を、歌詞の意味を頭の中にしっかりと描き、内容をかみしめながら黙読します。次に2ステップ目として、できるだけゆっくりなテンポで、声を出さずに口(唇・あご・喉・舌)をかなり大げさに動かして歌ってみます。あくまでも声を出さずに、口の中でそれぞれの筋肉がどう動いているのかを感じることが大切です。3ステップ目は、そのままのテンポで声を出しながら口の動きと歌詞にメリハリをつけて歌います。そして最後の4ステップ目に、2・3ステップのトレーニングを段階的にスピード・アップさせて、原曲のテンポになるまで繰り返します。

トレーニングをする時は、レコーダーなどで録音をして、滑舌が良くなった部分とまだ矯正されていない部分を客観的に自己分析しましょう。地道に何度も繰り返すことによって、必ずすべての歌詞を滑舌良く歌えるようになります。

口の筋肉のトレーニング

滑舌良く発声するための、口の筋肉のトレーニング方法はいくつかあります。これらはスポーツと同じように、歌うための口の筋肉のウォーミング・アップにもなります(写真2)。

写真2 滑舌のトレーニングは「唇・あご・歯・舌」の動きのフォーメーションを良くすることでもある

①口を大きく開けたり、前歯をむき出したりする口のトレーニング。②口を閉じたまま下あごを何度も左右に動かして、次に口を開けて下あごを左右に何度も動かしてから、口を大きく開けたり閉じたりするあごのトレーニング。③唇を口の中に入れるように閉じて、破裂音である「パピプペポ」「バビブベボ」「マミムメモ」をゆっくり、はっきりと発音する唇のトレーニング。④割り箸などを歯で噛んで、唇やあごを動かさずに滑舌の悪くなってしまう歌詞を何度も発声し、慣れてきたら何も噛まずに同じ歌詞を発声する舌のトレーニングの4つです。

これらを普段から、歌う前や空いた時間に行うことで、楽に滑舌良く発声できるようになっていきます。

外国語の曲にチャレンジして日本語の滑舌を直そう!

私事ですが、かつて英語や中国語、タイ語など外国語の歌のレコーディングをした後に、食べ物の味覚が変わったり顔の筋肉が痙攣したりすることがありました。日本語と外国の言葉では、顔の筋肉、あご、唇、舌の動かし方が違うため、普段使っていない場所にそういった症状が起こっていたのです。細かくネイティブの発音指導をされながら1曲に何日もかけてレコーディングすることもあり、同じ部分を何度も繰り返して歌い続ける作業は地獄のような辛さがあったのですが(笑)、その経験のおかげで顔、あご、唇、舌に使う筋肉が発達し、日本語も滑舌良く歌えるようになりました。

皆さんも外国語の歌を歌うためではなく、日本語を滑舌良く歌えるようになるために、ぜひ外国語の曲にチャレンジしてみてください。きっといろいろな発見があると思います。

▲音の響きで言葉を感じてみよう!

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