第4回 コード・バッキングのスムーズな移動

コード・バッキングをする場合、楽譜に書かれているコードをいかにスムーズに連結して演奏できるかを工夫することで、楽曲をマスターする時間が短縮されます。そのキー(調)のスケールの音のみで構成されたコードである「ダイアトニック・コード」を用いて考えてみましょう。(文・竹中敬一)

STEP1  コードの「転回形」を上手に使う

ドミソ」の和音のように、1度、3度、5度と重ねた「基本形」でしかコードを押さえられないと、コードが変わった時の鍵盤の移動にロスが出ます。コード同士を近い音域で弾いた方が聴感上のサウンドも良く、他の楽器の音域も邪魔しません。音の積み方(ボイシング)を変えた「転回形」を使って上手にコードをつなげ、無駄のない動きで演奏できるようにしましょう。

「最短距離の移動」を考える

コードをつなげる時には「移動距離を短くする」ことを頭に入れておきましょう。共通の音はそのままで、他の音もなるべく近くの音への移動を心がけます(写真1)。そうしたスムーズな移動を考えていけるようになるには、コードそれぞれの構成音と複数のボイシングの形を理解しておく必要があります。

写真1 コードをつなぐ時の例。C(ド、ミ、ソ)からF(ド、ファ、ラ)ヘの移動

まずは、譜例1のa)のコード進行で練習していきましょう。コードの移動を2拍ごと、1拍ごと、2拍3連で行います(譜例2)。メトロノームで自分が無理なく弾けるテンポを設定して、徐々にスピードを上げていってください。慣れてきたら、同様に譜例1のb)の進行、c)の進行でも行ってみましょう。

譜例1 矢印は共通音。他の音は最短距離で移動しよう

譜例2 薬指や小指で押さえる鍵盤は音が小さくなりがちなので、どの音も均等な強さになるように弾こう

音の積み方をさらに変える

譜例3は譜例1のa)の音の積み方を変えた形です。音の積み方が変わると当然鍵盤を弾く位置も変わるので、しっかりと頭を切り替えましょう。譜例2の練習メニューをいろいろな転回形で行ってみてください。

譜例3 譜例1のa)を転回すると3種類の形ができる。b)やc)も同様に行ってみよう。矢印は共通音

譜例1の3種類のコード進行は、様々な楽曲でよく登場します。この3種類をそれぞれ同じように練習することで、かなりの場面で適応できる例を身につけられるでしょう。ポイントはメトロノームを使って、何となくではなく、しっかりとテンポをキープしながら、音符の長さや休符の長さを意識して行うことです。録音して聴き返すことを繰り返して、1つ1つを確実にマスターしていきましょう。

 

STEP2  「音のライン」を意識した弾き方

STEP1では、基本形や転回形を上手に連結しながら、なるべく同じ音域でプレイする練習を紹介しましたが、実際にはそれを踏まえた上で、より音楽的なアプローチができることが望ましくなります。キーボードは広い音域を扱える楽器のため、バンドの中ではしばしば全体を見ながら他の楽器をフォローし、彩りを添えることを求められる場合があります。

分散和音で弾く

分散和音」とは、和音(コード)を構成する音を同時に鳴らすのではなく、何度かに分散させて演奏することです。まずは、指1本1本を独立して動かせるようにするために、STEP1の譜例1のa)のコード進行を使って、音の移動を意識しながら、どの音も同じ音量になるように弾いてみましょう(譜例4)。薬指や小指で演奏する音は、手首を少し外側に傾けるようにして弾くと指に力が乗せやすくなります(写真2)。次に、最も高い音である「トップ・ノート」の時だけ、少しアクセントをつけて弾いてみましょう。動きにくい指にさらに負荷をかける練習ですが、もう一度STEP1の譜例2に戻ってみると、トップ・ノートの音が驚くほどしっかりと弾けている自分に気づくと思います。

譜例4 3つ目の練習パターンでは、共通音をオモテ拍、移動する音をウラ拍で弾いてみよう

写真2 手首を少し外側に傾けるように

スムーズにできるようになってきたら、STEP1の譜例1の他のパターンでも同じように練習してみましょう。

印象的な音を意識する

コードのスムーズな移動をもう一歩進めて、押さえたコードそれぞれのトップ・ノートの流れや、最も低い音である「ボトム・ノート」の流れを考えられるようになると、フレーズとしてさらに生きてきます。つながったトップ・ノートやボトム・ノートでメロディーのようなラインを作り、その下や上に2声のハーモニーをつけるイメージです。譜例5を楽曲の中のコード・バッキングのつもりで弾いてみてください。注意すべき点は、これまでと同様に「同じ音はそのまま」「最短距離の音へ動かす」「トップ・ノートのラインを少し強めに弾く」ことです。ボトム・ノートが3拍目まで同じ音であることも意識しましょう。バラードを演奏するような気持ちで、♩=60くらいのテンポから行ってみてください。譜面の音符を見るのではなく、コード・ネームだけを見て、指が反応できるようになることが目標です。

譜例5 まず右手だけで上段を練習してから、下段の左手も加えてみよう。矢印はボトム・ノートの共通音

コードの概念。山田君は副部長!?

小さい頃からピアノを習っていたのに、軽音楽部でキーボードを担当することになって、「コードって何?」と足踏みしてしまった人もいるのではないでしょうか。伝統的に表現の仕方が違うだけで、クラシック音楽にも「和音(英:chord)」としてコードの概念は存在します。ポピュラー・ミュージックで使う「コード・ネーム」とは、機能的に文字化された記号のようなもので、1つの響きに対して原則1つのコード・ネームしか存在しませんが、クラシックでは「○調の○度の和音」という表現で、響きは1つですが、何通りかの呼び方が生まれます。

ポップスにおけるコード・ネームでは「山田太郎」、クラシックにおける和音では「軽音楽部副部長」「2年1組の風紀委員」というようなものでしょうか。

▲ベートーヴェン「悲愴ソナタ」第2楽章冒頭はAb→Eb/Db→Ab/C→Eb7/Gというコード進行だ

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