東京都立鷺宮高等学校 軽音楽部 荒木敦史先生

一般教職の傍ら、軽音楽部の顧問を受け持つ先生には生徒指導の熱意はもちろんのこと、バンドやロックへの思い入れなど、とても大きなエネルギーが必要です。良い部活にしようと努力した結果、部員が増えることは嬉しい半面、大規模になると維持もたいへん。そんなジレンマをどのように解決されているのか、160名を超える部員を擁し、大会の常連校でもある東京都立鷺宮高等学校の軽音楽部顧問、荒木敦史先生に伺いました。

(2014/3/DiGiRECO.JR VOL.2 掲載)

部員はなんと160余名、全国最大級の部活運営校

ー 軽音楽部顧問としての経歴

荒木:軽音楽部の顧問を担当するようになったのは5年前からです。前任の先生から引き継いだ当時の部員数は70〜80人でした。ちょうど同時期に、高校生バンドの中から日本一を決める「音燃え!」というテレビ番組で優勝した部員が当校の軽音楽部に所属していたこともあり、新たに50人ほどの入部希望者がやってきて、トータルの部員数も100人を超えるようになりました。その後は毎年70〜80人の生徒が入部しています。ちなみに、当校の全校生徒は840人なので、およそ5人に1人が軽音楽部員ということになるんです。「学校のクラスの中に軽音楽部員が10人ほどいる」というのは、当校ならではじゃないでしょうか。

160人となると、学校の部活動としても最大規模の部員数になると思います。恐らく、全国の軽音楽部の中でも一番多い部員数なのではないでしょうか。さらに、都立高校の野球部やサッカー部といった「部活動」というくくりの中でも、当校の軽音楽部は部員数が一番多いと思います。

ー 荒木先生の軽音楽部の指導方針

荒木:私が顧問を担当するようになった当時から部員たちに話しているのは「バンドは一生、続けてください」ということです。私も趣味で音楽をやっているのですが、生徒たちは部活を引退するとバンド活動も止めてしまうんです。「それはすごく残念だな…」と思うので、プロ/アマチュアは関係なしで、ずっと続けて欲しいと思います。よく部員たちと冗談で言っているのは、将来子供ができて、食卓で音楽番組を見ている時に「実はね…お父さん/お母さん、高校生の時にバンドをやっていたんだよ」というのはとてもカッコ悪い、と。そうではなくて、今も現役で続けていて、「お父さん/お母さんがやっているから自分も始めようかな!」という感じになってくれると素敵だと思います。

また、最近は「時間のマネジメント」も大切だと感じています。たまに、大会の1週間くらい前に曲を作っているようなケースがあるので、「そこは逆算してスケジュールを組み立てましょう」と言っています。計画がちゃんと立てられると、社会に出てからも役に立つんですよね。よく「料理が時間管理の勉強になる」という話を聞くのですが、何時何分にいろいろな料理がすべて揃うようにするには、どこから手を付けようか…という感じで、バンドでライブ本番に向けて練習をしたり、オリジナル曲を作るのも同じことだと感じています。

ー これまでの経歴の失敗と成功

荒木:私が日々やってしまうのは、顧問の想いが強過ぎることです。「この大会で優勝させたい!」という風に顧問の気持ちが熱過ぎてしまうと、失敗することがあります。以前、こちらの思惑で各パートのメンバーを決めて、まさに「ドリームチーム」を作ったことがあったのですが、これはなかなかうまくいきませんでした。選ばれなかった部員たちのモチベーションが下がってしまったり、練習でうまくいかない場合に言い訳する余地を与えてしまうことになったんです。今は「教員だから子供たちの心はたくさん見ているし、気持ちの部分をサポートしてあげるのが自分の役割かな…」と感じています。

面白いのは、私はよく部員たちとメールのやりとりをするのですが、 本番の前日にかけた言葉で当日の演奏がガラッと良くなることがあるんです。また、「朝会った時にどういったテンションで接しようか」「どういう風に声をかければ、彼らの実力が100%から103%になるのかな」ということをいつも考えています。ここが顧問としての一番の醍醐味かもしれません。

ー 顧問を担当してからのコンテストなどの受賞歴

荒木:軽音楽連盟主催の大会では、都大会で準グランプリを2年連続で獲得し、関東大会では奨励賞を受賞しました。外部のコンテストでは、ヤマハ主催のミュージックレボリューションでジャパンファイルまで行くことができました。前年はお客さんとして参加していたのですが、「60歳まで軽音楽部の顧問をやっていて、この場に部員たちを連れてこれるのかな…」とボンヤリと思っていたら、トントン拍子に進んで…。この出来事は本当に嬉しかったです。

他にも、高校生が出るようなライブイベントには積極的に参加させていただいており、吉祥寺で開催されている「ジョージロック」や「横浜ハイスクールミュージックフェスティバル」でも優勝することができたなど、これまでの活動はまるでジェットコースターのようでした。

ー コンテストで優勝する秘訣

荒木:特に秘訣のようなものはありませんが、生徒たちを相手にする時はなるべく広い「枠」を設けるようにしています。一番外側にある枠は「法律」なので、その法律の近くまで「どれだけ枠を拡げてあげることができるかな…」ということなんです。「他人に迷惑をかけなければ、好きなだけ好きなことをやって良いよ」と言える大人がどれだけいるのかな…と。私はその枠をなるべく大きくしようと考えていて、学校の授業も同じように、「押さえつけるような教育ではなくて、やらせるだけやらせて、それをまとめるのが自分の仕事だな…」ということを感じています。

よくニワトリで例えるのですが、広い運動場の方が動き回れるので、たくましいニワトリが育つと思います。ところが、その枠を狭める方向に進んでしまうと狭い運動場でしか鍛えられないので、先生の言いなりになってしまいがちなんです。そうすると、先生を越えるような生徒は絶対に出てきません。「枠を広く設けておくと、私を軽々と越える生徒が出てくるという考えが大会での結果につながったのかな…」と思います。

ー 軽音楽部やバンドにとって、コンテストで受賞することの意味とは

荒木:最近、「あまり大人から褒められたことがない」という生徒が多い傾向にあり、「生まれて初めて賞状を貰った!」などと言っています。それに、大会で賞を獲得すると同世代の友達などから賞賛されるので、「俺たちでもやればできるんだ…」という感じでモチベーションがすごく変わるんです。いつも大会を運営していただいている皆さんに本当に感謝しています。

また、いろいろな大会や合同ライブに参加していると仲間が増えてくるので、それはなかなか他の部活動では得られないものだと感じています。甲子園に行く高校同士は仲良しらしいのですが、「練習試合や予選大会で試合をした高校同士が仲良しか?」というと、あまりそうとは思えません。そういう意味では「バンドって良いな…」と思っていて、勝ち負けじゃないんですよね。面白いことに、軽音楽部の部員たちは仲間の高校生バンドが演奏中に失敗してしまうのを見て、悔しがっているんです。演奏がうまいとか下手ということは関係なしで、良いモノは良いと言える環境というのは素晴らしいことだと思います。

ー 良いオリジナル曲を作るには

荒木:私はコード理論などがまったくわからないので特に作曲の指導はしていないのですが、「イントロをこうすれば?」とか「ここにブレイクを入れてみたらどう?」など、楽曲の構成に関しては言うようにしています。曲の作り方には1曲を作ってそれを磨き上げる方法もありますが、私はたくさん作って、捨てて…というやり方を奨励しています。

それから、学校の先生を有効的に利用して欲しいと考えています。音楽の先生にコードを見てもらったり、英語の先生に「サビの部分だけ英語にしたいので、間違っていないかを見てください!」とお願いしに行くように部員に話しているんです。先生からは「良いけどさ〜、普段僕の授業をあまり聞いていないよね〜!」と言われつつ、生徒たちも「すみません!」みたいな会話をしていて…(笑)。「学校には得意な分野を持っている先生たちがたくさんいるんだから、どんどん行けば良いんじゃない?」という風に話しています。そうすると、生徒たちも「学校っていろいろなプロがいるから面白いな!」「自分がやっていることを評価してくれる先生っているんだ!」と感じるようになると考えています。

ー 大勢の部員を抱える部活の運営面でのメリット

荒木:部員の数が多いので、学校側に認知してもらいやすいところがメリットです。管理職の先生にも「こんな活動をしています」というような話がしやすいので、伸び伸びと活動することができます。また、人数が多いおかげで取材などのお話をいただけたり、音楽業界の方々が見学に来られてアドバイスを言ってくださったり、ライブハウスさんもいろいろと応援してくださったりと、大人数のメリットというのはすごくあります。それに、学校のクラスのみんなも軽音楽部のことを知っているので、「このバンド、カッコ良いよね!」というような会話を普通の生徒もしているんです。

ー 大勢の部員を抱える部活の運営面でのデメリット

荒木:やりにくいところは、メリットでもある「人数が多い」という点でしょうか…。バンドの掛け持ちをさせていないのですが、35バンドくらいあるので練習を満足にさせてあげられていないほか、大会にもすべてのバンドが出ることはできないんです。文化祭ライブも持ち時間が少なかったり、代表バンドを決める「校内オーディション」をやっているなど、どうしてもうまい子ばかりが活躍してしまいがちなので、そこは可哀相な部分があると思います。とはいえ、スタートラインはほとんど一緒で、みんな初心者から始めてその中で差がついてくるので、そこは「持って生まれたものではなくて、努力する時間や気持ちの部分の違いなんだよ」という風に話しています。

ー 160人の部員を抱える軽音楽部の練習模様

荒木:当校には大きな音を出せる教室が4教室あります。そこで放課後から下校時間までの3時間を1時間半ずつに区切って、1教室あたり2バンド…4教室なので、1日に計8バンドが練習しています。バンド単位でローテーションを組んで活動しているので、およそ週に1回は学校で練習ができるかな…という感じです。何も行事がない時は毎日練習しているのですが、大会や外部のライブなどに参加させていただく機会が増えてきているので、なかなか土日は練習ができていません。また、どのバンドも近隣のリハーサル・スタジオを借りて練習しているので、バンド単位では週に2回くらい、2時間〜3時間ほど練習しています。バンド練習がない日はそれぞれが自宅などで練習している感じです。

ー 荒木先生から全国の軽音楽部員に一言

荒木:これはある人からいただいた言葉なのですが、高校生の軽音楽部員というのは海からはいろいろなものが寄ってくるし、後ろには陸地があるという感じで、音楽の世界の「波打ち際」にいると言われているんです。波打ち際にいる高校生だからこそプロの世界が見えてくる反面、音楽を聴かない人たちがいることも理解していると思います。軽音楽部員というのはちょうどその境目にいるわけですが、軽音楽部に入部したということは「音楽」という素敵な世界に何らかの興味を持ったのだと思うんです。私たちは「音楽がどれほど素晴らしいものか」ということを知っているので、まずは軽音楽部の皆さんに「ようこそ、こちら側へ!」ということを伝えたいです。そして、「みんなでこっちの世界に来る人たちを増やしましょうよ!」という気持ちで一緒に頑張りたいですね。スポーツと同じように、音楽は人々を感動させられる力を持っているので、これからも軽音楽部員として活動していることに誇りを持って欲しいと思います。そのためには、やはり実力がものを言う部分があり、うまければうまいほどたくさんの人を感動させられるはずなので、カッコ良くなれる自分を信じて、これからも努力することを続けてください。

とはいえ、部活動だけを頑張っているのではいけません。しっかりと練習して、ちゃんとした演奏ができるようになるのはもちろんですが、きちんと学校生活を送って、積極的に授業を受けてテストでも良い点を取る…。それができて、「学校でバンドやってるけど、何か文句ある?」と言えるのが、本当のロックだと思います。

ー これからの軽音楽部が目指すべきものは何でしょうか

荒木:私は「軽音楽部を通じて、文化を創りたい」と考えています。日本にはそれぞれの分野に「学校」や「教室」というものがあり、学びたい人たちはそこへ通っている…という文化があるので、高校の軽音楽部でも「学校の部活動としてのバンド演奏」という文化を創り上げて、それがいろいろなところから認められるようになれば、社会も「バンドというのは1つの文化なんだ!」ということで、もっと応援してくれるようになると考えています。小さな世界かもしれませんが、まずは高校の軽音楽部がバンドという文化を創る「真面目な場所」になってくれれば…と思います。

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