軽音楽部がさらに市民権を得るために

その昔、昭和の時代のまだ軽音楽部が荒れていた頃、その地位を少しでも向上させるべく、生徒指導をされてきた顧問の先生方…今やベテランの領域だと思います…のご苦労は大変だったと思います。そのおかげで、軽音楽部を取り巻く環境は格段に良くなりましたが、まだまだ他の部活動に比べると肩身の狭い感じは否めません。平成も終わり、令和には時代に合わせた指導や楽器/機材の環境、生徒の意識改革などが必要ではないでしょうか。
文:三谷佳之(特定非営利活動法人 全国学校軽音楽部協会 理事長)

①部活動としての軽音楽部の規範は他の部活動と同様

軽音楽部は学校が認める部活動の1つです。部の活動という限り、バンド単位ではなく、部として全体で活動することが基本になるはずです。毎日活動していない、全体での練習をしない、バンド練習の入っていない部員は帰ってしまう、大会では出演するバンド以外は会場に足を運ばない…などは、他の部活動からすると不思議に思えることでしょう。校内での普段の部活動だけでなく、公式な部活動として高等学校文化連盟に軽音楽専門部を設置してもらうには、他の専門部からの応援や信用がないと成り立ちません。それは部室での頑張り度合や大会での成績や表彰状ではなく、高校生として、部活動として、どのような活動をしているかが要だと思います。もちろん、生徒の生活態度や成績が影響することは言うまでもありません。

②軽音楽部の強みは社会が求める人材の育成ができる点

軽音楽部では練習する楽曲を決めるところからメンバー同士の「コミュニケーション」が必要になり、いざ演奏するとなるとみんなで合奏するわけですから「チームワーク」が育まれ、オリジナル曲の作成は言うに及ばず、コピー曲のアレンジでさえ、「クリエイティビティー」が磨かれることになります。つまり、「コミュニケーション」と「チームワーク」と「クリエイティビティー」を楽器演奏やバンド活動を通して学ぶことができ、高校生の人間形成に役立つのが軽音楽部の特長だと思います。楽器の演奏がうまくなったり、大会でグランプリを取ることは軽音楽部の主たる目的ではなく、もちろん、プロ・ミュージシャンの養成機関でもありません。それらは真面目に活動した際の副産物です。この3つは社会に出た際に役に立つスキルであり、これに長けた人を社会や企業が求めています。そんな素晴らしい部活動ですが、校内や社会的な地位があまり高くないところがあるのも事実です。

③ライブ活動 vs 部活動、営利事業と教育の一環

校外でバンドが演奏していると、それが校外で自由に活動する高校生バンドなのか、軽音楽部に所属するバンドなのかの区別は制服でも着ていない限り、難しいです。昨今、ライブハウスが高校生バンドを集めたイベントを主催する機会が増えており、軽音楽部に所属するバンドも出演しているようです。軽音楽部のバンドが校外のイベントに参加する場合、それは校外活動となるわけですから、顧問の引率があるのか、部員全員で参加(応援)するのか、主催者は学校(顧問)を経由して参加を依頼しているのか…など、注意すべき点は少なくありません。また、出演する側にチケットノルマが生じたり、チケットを友達に購入してもらうことも出てきます。日本音楽著作権協会(JASRAC)ではイベントの主催や共催に株式会社が入っていると営利目的と看做すそうです。そういう意味では、部活動が民間企業の営利事業に加担して良いのか…という疑問も生じます。発表の場が少ないという理由も理解できますが、部活動である以上、他の部活動に並ぶ活動を心がけるべきであり、目指すべきは公式な演奏会や大会であり、数が少ないのであれば増やす努力が必要ではないかと思います。

④顧問は部活動の運営者。発表の場の創出が急務

軽音楽部は部活動の1つであり、教育的観点が欠かせないので、顧問に求められるものは技術指導ではなく、生徒指導だと思います。政府の「働き方改革」や文化庁の「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」には、部活動の専門的な技術指導は外部コーチに委託し、顧問は辞書通りの顧問として、部活動の運営者になることだと言われています。技術指導から解放されることで、一般の教員でも軽音楽部の顧問を引き受けられるようになるはず。当協会では軽音楽部の指導に関するガイドラインを作成し、楽器やバンドの未経験者でも指導体制が作れるようにしたいと考えています。顧問は生徒指導や部活動の運営に徹し、技術指導は外部コーチや上級生が下級生に教えるというスタイルです。外部コーチによる指導ガイドラインやコーチ育成に関しては、音楽専門学校や音楽大学などと協議しながら進めていきます。また、顧問の先生には演奏活動の発表の場や機会の創出に尽力を賜りたいです。複数の高校での合同演奏会や地域イベントへの参加など、教育の一環という観点を持った発表会を用意することで部活動らしい活動ができるようになると思います。

⑤転ばぬ先の杖ではなく、失敗もまた経験と考える

部活動の主目的が教育であり、人間形成であるなら、失敗をすることで学ぶことも少なくないはずです。楽器の演奏がなかなか上達しなかったり、本番でミスしてしまったり、バンドのメンバーと喧嘩をしたり…いろいろな失敗の要素が待ち構えています。顧問自身、楽器演奏ができたり、バンド活動の経験者なら、練習方法や演奏方法に口出しをしたり、演奏会や大会の大事なシーンで楽器のセッティングに手を出したくなることがあると思います。しかし、危険であるという致命的なものを除いて、転ばぬ先に杖を差し出すのは生徒の学びの機会を奪ってしまうことになります。失敗は成功の元と言います。失敗しないでスイスイと前に進む生徒もいますが、あっちこっちで失敗してしまう生徒も少なくないはず。失敗を回避する方法を教えてしまうことは生徒に「魚を与える」ことになってしまいます。生徒の将来を考えると、転ばせてしまい(失敗を経験させて)、転んだ理由を振り返り、「魚の釣り方を教える(指導する)」ことが大切ではないかを思います。

⑥全国レベルで考える統一ガイドラインづくり

軽音楽部の大会がトップダウンではなく、各地の実情に合わせてボトムアップで発展してきた結果、大会の呼称、演奏時間や持ち時間、ステージの楽器、審査基準や審査員の選び方など、規定(レギュレーション)が揃っていないのが現実です。詳細は本誌の20ページの「高等学校軽音楽系コンテストのアンケート集計」をご覧ください。軽音楽部のゴールは全国高等学校文化連盟に軽音楽専門部を設置することだと思います。現時点では全国的にルールの統一を決定したり、推進する組織はありません。地域ごとに大会があり、将来、その先にブロック大会や全国大会を位置させるのであれば、演奏時間、使用楽器、審査基準、審査員の選定などに統一性が求められるのではないでしょうか。特に審査に関しては、軽音楽部の目的は新人発掘のオーディションではありませんので、普段から高等学校の軽音楽部との接点のない方が担当すると本質を見誤りかねません。地域によって採点基準が違うのも問題を生みやすいです。当協会では演奏時間をはじめ、標準的な使用楽器の推奨や審査基準や審査員選考のためのガイドラインを識者を交えて、考えていく予定です。

⑦新しい軽音楽部に適した楽器や機材選定と標準化

予算がふんだんにある軽音楽部は珍しいので、公費で揃える楽器や機材はバンドやプレイヤーのために最良のものではなく、現実的には、安くて、多くの生徒が使えるものを選ぶべきではないかと思います。多くの大会やコンテストでは自分のギターは持ち込みますが、自分が慣れ親しんだアンプでも持ち込むことは許されていません。転換時間の都合で禁止するのなら、地域や高校が違っても使用する楽器や機材を統一しておくのが部員にとっては合理的ではないでしょうか。できれば、全国の軽音楽部の部室や大会で使われる楽器や機材が標準化され、統一されることが望ましいです。また、ドラムなどの生音の大きな楽器は校内や近隣との騒音問題に発展しがちですので、そういう高校は電子ドラムを使用することで問題解決を図るのが賢明だと思います。それが広まった場合、大会で電子ドラムを用意しておくのが公平な措置だと思います。当協会では、音を出さない「サイレント・スタジオ」と称した練習システムを提案しています。

⑧連盟設立の初心に戻り加盟校の意識を一枚岩に

現在、全国で2000余校ある軽音楽部の中で連盟や専門部に加盟している高校は4割に過ぎません。高等学校文化連盟に軽音楽専門部のある県は47都道府県中で12です。3年前に始まった全国総文祭の協賛部門での軽音楽部の大会の火を絶やさないように、全国総文祭の先回りをすることも急務ではないかと思います。しかしながら、今年の佐賀県はなく、来年から3年間は高知県→和歌山県→東京都と続きますが、その先の鹿児島県は難しいでしょう。その次の岐阜県は…協会では岐阜県での専門部の設立を目指して、過日、顧問集会を開催したばかりです。

各県の高等学校文化連盟に軽音楽専門部を設立してもらうには、その前段階として軽音楽連盟を組織し、活動を積み重ねて、他の専門部などの信頼を得る必要があります。その活動とは大会の開催だけを指すものではなく、加盟校が一丸となって、情報交換や共有をし、軽音楽部を部活動として機能させることにあると思います。大会に実施要項があるように、軽音楽部の普段の活動にも行動の指針となるルールとして「軽音楽部はかくあるべき」という憲章が必要だと思います。もちろん、十人十色、十校十色ですので、ベクトルを揃えることは容易ではありません。しかし、「個々の事案に関しては各校の顧問の判断に従う」というスタンスでは、加盟校の足並みが揃わず、一枚岩になれません。軽音楽部が部活動として、さらに市民権を得るには、全国のどこの高校の軽音楽部でも同じような(ような…です)ビジョンやガイドラインを持って活動すべきではないでしょうか。

⑨部への帰属意識を高め、伝統や誇りを持たせる

軽音楽部では、バンド単位だけでなく、音響や照明、ステージスタッフや進行管理など、部としての活動において、チームワークを学ぶことができます。そこから先輩や後輩との上下の関係、同級生との横の関係…つまり、縦と横の結束を図ることができます。そういう場合に欠かせないのが帰属意識を高めるモノではないでしょうか。汗をかいたり、汚れたりする運動部ではユニフォームの着用は当たり前です。軽音楽部にはユニフォームを着込む必然性はありませんが、お揃いのTシャツくらいはあっても悪くないと思います(今後、学校名入りの缶バッジの製作を推奨していく予定です)。当協会が推奨している校名入りのギターケースやスティックバッグなど、校外の高校生バンドではやれない、軽音楽部全員で校名入りの同じものを持つことで結束力や連帯感、帰属意識が高まり、そこから自校や軽音楽部に対する誇りや愛着、部の規律や伝統などが派生してくると思います。

⑩支援という言葉の背景。公平性、中立性、継続性

学校や教育という特殊な環境を純粋に、本気で、支援するには営利団体が直接関与することは望ましくないと思い、特定非営利活動法人 全国学校軽音楽部協会を設立しました。大都市でも地方でも、全国的に「公平」な支援を受けられることが大切だと思います。また、支援に関しては軽音楽部(員)が本当に有益なサービスの提供を受けられるように「中立」であることが求められると思います。さらに、それらの支援が年度や業績の変動に関係なく、「継続」して受けられることが大切です。③でも述べましたが、日本音楽著作権協会(JASRAC)ではイベントの主催や共催に株式会社が入っていると営利事業と看做されるそうです。特定非営利活動法人であろうと、教員や教育関係者ではないという点では民間と同一視されると耳にしたこともありますが、当協会のような存在は過去になかったので、状況判断が難しいと思います。これまでの、そして、これからの活動を実績にして、信用を得られるように努めていきます。

私は高校生が音楽やバンド活動を通して、楽しい学生時代を送り、豊かな人生を歩んでくれることに大いに期待しており、そのお手伝いに関与できることを幸せに感じています。軽音楽部が一朝一夕に市民権を得られるとは考えておりません。もしかすると20年かかるかもしれません。でも、千里の道も一歩からと言います。前に進まなければ意味がありません。本欄に書いたことは私見ですが、顧問の皆さんの議論のきっかけになれば幸いです。(顧問通信 VOL.25 令和元年6-7月号より)

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